『「夏」字に「夊」が含まれる理由』という記事では、古文字においてヒト形の下部に足が描かれた結果楷書で「夊」形が現れる字について紹介しました。「夏」「夋」「處(処)」のほか「夌」「夒」などがこれに該当します。今記事では「慶」字について説明します。
「慶」字は「廌+心」からなります(「廌」は鹿に類する動物の形です)。甲骨金文では以下のように書かれます。
右2例下部のは「廌」の尾の部分です。
春秋・戦国時代に至って、斉系地域で書かれた「慶」字においてもこの筆画は保たれています。
しかし楚国では、その尾の部分の筆画が変化して「(虫)」になりました。
最後の例は「虫」が「䖵」に変化していますが、「虫」旁と「䖵」旁の交換はよく見られる現象です。
秦国では、この「虫」形がさらに「夊」に変化しました。
そして秦の文字統一により、この書き方が規範となりました。
つまり、「慶」字の下部「夊」は、「廌」形の尾部分の筆画が変化したものということです。